岩永直子さんに聞く独立後の「お金の話」 - 無料記事でも安定収益をあげられる? -

theLetter ストーリーは、theLetter 上で活躍する書き手の方々に、メディア運営方法や活用の理由などを深掘りする公式ニュースレターのコーナーです。
医療記者の岩永直子さんは theLetter を利用し「医療記者、岩永直子のニュースレター」を運営しています。今回は、読売新聞社、BuzzFeed Japan を経て独立した経緯、どう生計を立てたか?などの独立のリアルを伺っています。
退職に至る経緯、メディアの収益化の難しさ
「書く」ことを仕事にするというのは、収入への不安との戦いでもあります。それは会社員時代から感じていました。
6年ほど在籍したオンラインメディア企業 BuzzFeed Japan では、医療部門を立ち上げ編集長としてコロナ禍を迎え、精力的にメディア運営をしていました。担当した医療記事は驚くほど読まれ、自分としては会社に貢献しているつもりだったんですが、6年間でほとんど給料は上がりませんでした。
読者は支持してくれたけれど、会社からの評価は高いとは言えませんでした。今思えば、広告収入を増やす方向へ舵を切った経営方針に対立するようなことをガンガン提言していたので、経営陣からすると厄介な社員だったのだと思います。
たとえば、科学的根拠のないサプリや美容施術などの題材を、一般記事としてはもちろん、記事広告として好意的に扱うことは医療記者として見過ごせません。とくに通常の記事と見分けがつきにくい記事広告で読者を惑わせてはいけない、それは禁じ手でしょうと思っていました。
正しい情報を伝える役割のメディアがあるべき姿を見失っているように見え「終わりの始まりだ」と思いました。会社員をしながら飲食店でアルバイトを始めたのもそうした背景があったからです。金儲けのための不正確な記事は、私には書けない。書きたくもない。そうやって食べていくくらいなら、他の仕事をした方がいいーーと。
ただ、「今さら、私がどこで書けるんだろう」というのはかなり悩んでいましたね。エンタメ部門に異動を言い渡され医療記事が書けなくなってしまった BuzzFeed Japan を退職すると決め、転職活動を始めたのは49歳。年齢的にも採りにくい人材だったんでしょう、いろいろなメディアに応募しましたが面接まで辿り着くことはできませんでした。医療従事者向けの記事を書く仕事のスカウトもいただいたのですが、一般読者向けに書きたい気持ちが強く、条件は良かったもののお断りしました。
2024年に創刊した国内初の依存症専門オンラインメディア「Addiction Report」では、今、編集長を任されています。これは私が力を入れて書きたい場所のひとつですが、運営資金を寄付で賄うメディアのため、収入として多いとは言えません。飲食店のアルバイトを加えても、それだけで生活していくのは難しい状況でした。
そんな時にお声がけいただいた theLetter で書き始めたことは、大きな転換点となりました。書き続けるための、経済的な基盤ができたのです。

岩永さんの独立についてのSNS投稿直後に、代表の濱本がお誘いしたメッセージ
収益を生みにくい「やりたいこと」も月額課金が支えてくれる
現在の記者としての主な収入源は、theLetter、「Addiction Report」、ムック本の執筆、寄稿や書評といった単発の仕事。これに飲食店のアルバイト収入を合わせて、ようやく大好きなワインも楽しめるーー娯楽も含めて生活が成り立っているという感じですね。
正直、theLetter を始めようと決めた時、私の生活を支えるメインの収入源になるなんて思ってもみませんでした。ただ誰にも邪魔されず、自由に記事を書ける場がほしかったというだけで始めましたから。
note のように、記事を単品で販売したり、お布施のようにサポートしてくれたり……といったあくまで一時的な応援が収入になる形をイメージしていましたが、月々のサブスク型課金によって先を見通した執筆活動ができるようになったと実感しています。
書いた記事を SmartNews などの提携媒体にも載せられる「マルチ配信」では、記事と媒体のアルゴリズムの相性が合うと驚くほど読まれることも。それは収益に反映されますし、やっぱり書いた記事はたくさん読まれたいので、いい仕組みだなと思いますね。
記者としての活動を続けるには、取材費のほかにも書籍や論文の購入費用など、さまざまな出費が必要です。独立当初は、こうしたインプットにお金をかけることは難しいだろうとあきらめていましたが、読者のみなさんのおかげでそれも叶いました。私のすべての活動を下支えしてくれているのが theLetter の読者のみなさんなんです。
初めてサポートメンバーを募った時は、「こんな金額をサポートしてくれる人がいるんだ!」と本当に驚きました。月に1万円くらいサポートしてくださる方もいるんですよ。配信記事を楽しみにしてくださっているだけでなく、記者生活を支えてくれようとする気持ちが伝わってきました。
本心を言ってしまえば、できることなら全ての記事を無料で出したいと思っています。格差・貧困問題の当事者は、記事に課金することは難しいでしょうし、医療記事、特に感染症対策については、興味がない方にも広く知ってもらいたい内容です。
theLetter では「誰でも」「読者限定」「サポートメンバー限定」で閲覧権限をコントロールすることができますが、私の記事は他の書き手の方に比べて「誰でも」読める記事が多いと言われます。これができるのは、サポートメンバーの毎月の課金が、「必要な人に正しい情報が行き渡るようにしたい」という私の気持ちを支えてくれているからなんですよね。
もっと自由に、挑戦的に変わってゆける執筆活動
theLetterを始めて1年余り。新聞がものすごく盛り上がっていた時代を記者として過ごし、取材の訓練や全国各地への出張など、恩恵を受けてきました。今は、これまで得てきたものをどうやって読者へ還元できるかを模索しているところです。
広く読んでほしい医療記事は無料で発信しつつ、個人的な視点を盛り込んだ記事や、少しマニアックなことは有料記事として配信することも考えています。医療記者という肩書きではありますが、例えば大好きなワインのことであったり、独立に至るまでの日記であったり……。そうした内容もサポートメンバー向けに書いてみて、反応を伺ってみたいと思っています。思いもよらないことに興味を持ってもらえたら、それによって自分の書く方向性も変わっていくかもしれません。ここは、自由に書ける、実験と挑戦ができる場所ですね。
記者や書き手を続けていくことは、本当に難しくて大変なことです。私の周りでも、記者を辞めてしまった方が何人もいます。今でもやりたいことと経済的なバランスの取り方は難しいと感じていますが、サポートメンバーの皆さんの月額課金のおかげで、私はフリーの記者でありながら経済基盤が安定しています。
毎月の課金は、読者からの「書き続けて」という応援メッセージだと思っていますから、医療記者として必要な人に必要な情報を届けるためにしっかりと記事にしていくことで、応援に対する返事になったら嬉しいですね。
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