医師が語るAI×医療のリアル活用最前線【イベントレポート】
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登壇者プロフィール
大塚篤司 先生:医師・コラムニスト。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医、アレルギー専門医、がん薬物治療認定医。専門は皮膚がん、アトピー性皮膚炎、免疫アレルギー、創薬。AERA dot.、産経新聞コラム、京都新聞コラム連載。B'zファン。著書に『あっという間のAIスライド作成術 (医師による医師のためのChatGPT入門) 』等。
ふらいと 先生(今西洋介先生):専門は新生児医療、児童虐待。小児医療政策で米国大学に研究留学。小児科学会専門医/周産期新生児専門医/公衆衛生学博士。米国LA在住。著書に『医師が本当に伝えたい 12歳までの育児の真実 親子の身体と心を守るエビデンス 』等。
左上から時計回りで 大塚篤司先生、theLetter 濱本、ふらいと先生
平日の夜にもかかわらず多くの医療従事者が参加した今回のイベントでは、「医師が語る、AI×医療のリアル活用最前線」をテーマに、活発なトークが展開されました。
本レポートでは、AIを日々活用する医療従事者であり、発信者としても活躍するお二人が語った内容を抜粋してお届けします。
日本とアメリカの医療現場におけるAI活用
冒頭では、現在UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で研究に取り組むふらいと先生が自己紹介とともに、ロサンゼルスの日常に溶け込むAIやロボットの様子を紹介しました。
自動運転車や無人タクシー、ChatGPTを搭載した自動配送ロボット、家庭向けヒューマノイドロボット、AIが特別な存在ではなく“生活インフラ”として街や家庭に入り込んでいる様子が語られました。自身の研究活動でもAIを積極的に活用しているといいます。
一方、日本でAI活用が進みにくい理由として、大塚先生は「AIを医療現場での診断として使うには厚労省の承認が必要です。 承認されていない領域では、医師個人の判断でも使うことが難しいんです」と、制度面の壁を指摘しました。
AI診断やAI補助は法的に慎重に扱われ、組織としての導入はほとんど進んでいません。結果として、医師がAIを使う場面は“医療行為に該当しない周辺業務”に限られ、個人の工夫に依存しているのが実情です。
調査、文献検索、論文要約、資料作成──日本の医師によるAI活用は、いまだ「個人戦」の段階に留まっていると言えそうです。
医師たちのリアルなAI活用術と「人にしかできないこと」の再確認
お二人は、ひとつのAIを使い続けるのではなく 用途によって複数のAIを適材適所で使い分け、目的に合わせて「道具を取り替える」スタイルをとっています。
論文検索ならPerprexity、論文の根拠確認ならOpen Evidence、壁打ちならChatGPT、文章校正ならばClaude、最新の情報を探すならGrok…といったように、イベント中でも多くのAIツール名が挙がりました。
ただし、「自分で論文を読むことは必須」「個人情報保護法に沿った使い方を徹底する」という姿勢は共通。AIはあくまでナビゲーターであり、最終判断は医師自身が行う点を強調していました。
AIが得意なのは、情報処理、分析、要約、比較、仮説の提示です。 しかし医療の現場で重要なのは、それだけではありません。患者の生活背景、家族構成、抱えている不安、価値観── これらを汲み取って治療方針を考える行為は、現段階のAIでは難しいと言います。
イベントで特に印象的だったのが、医師が持つ倫理観の話でした。大塚先生から「医師は、とにかく倫理を叩き込まれる。患者さんの命優先で、お金儲けは二の次と徹底的に言われてきた」という話が出ると、「そこが人間とAIで大きな違い」と、ふらいと先生も深く頷きました。
「AIが進めば進むほど、人間の倫理観や揺らぎが医師の仕事を特徴づける」という逆説的な未来像が語られ、そこから話は「人間の持つ凹凸」について移っていきました。
AI全盛期における「医師個人として書く文章」の価値
執筆プラットフォームであるtheLetter主催のイベントということもあり、「文章」についての話題があがると、執筆や発信の機会が多いお二人はそろって「調査や校正はAIを活用するが、文章そのものは自分で書く」と語りました。
大塚先生は、AIに自身の過去の文章をもとに“自分風の文章”を生成させたところ、「文章から匂いが消え、平坦になってしまった」と実感したといいます。そこから「人間の魅力は凹凸にあり、むしろ“凹んだ部分”こそがその人らしさになる」と気づいたそうです。
ふらいと先生もまた、一度ニュースレターの文章を試しにAIに依頼をしてみたものの、「"ふらいと先生感"はなかった。僕はAIより文章は下手だけれど、改めて読者の方には人間味を楽しんでもらっているのと思った」とコメントしました。
文章における“揺らぎ”や“完全ではない部分”は、医療の倫理的判断とも通じるところがあります。そうした人間ならではの要素が、読者との距離を近づけるという、医師ならではの気づきが印象的なトークでした。
日本の医療現場のAI活用は、これからどう進む?
日本では厚生労働省の承認が必要なため、AIの医療実装には依然として高いハードルがあります。一方、海外ではすでにAIが診断支援やメンタルヘルス相談に用いられ、現場の判断を補助する存在として浸透しつつあります。この点において、ふらいと先生は、AIにすべてを任せてしまうと倫理的リスクが生じる可能性に言及しました。
大塚先生からは、専門外の領域では医師がAIの助言に従う場面も増える可能性があり、「結局AIの指示に従っているだけなのでは」と不安を抱く人が出てくるかもしれない、といった指摘も。さらに、AIツールは医療従事者の能力差を埋める一方で、使いこなせる人とそうでない人の間に新たな格差を生む可能性についても語られました。
AI関連技術の進化は極めて速く、数週間で状況が変わることも珍しくありません。その変化の速さと向き合っているので、「数ヶ月後にはまた言っていることが変わっているかも」とお二人は笑いながら口にしましたが、これが現場で日々活用する人々のリアルな姿と言えそうです。
theLetterの主催するイベントは、書き手が業界のプロや専門家であることから深い内容の議論が特徴です。今回は具体的なAI活用術といった技術の話にとどまらず、AIが進化してもなお、人間にしか担えない領域── 倫理や揺らぎ、寄り添い、関係性といった点ががむしろ際立つ話が繰り広げられました。
「違う分野の人たちと情報交換することもAI活用におけるポイントになる」という話も盛り上がりを見せたので、第二回も見据えながら、今後もtheLetterではプロ・専門家の皆様をお呼びして皆様に役立つ情報をお届けするイベントを開催してまいります。どうぞお楽しみに!
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