どうなるAI時代の原稿料!「『書く』で生きる」は続けられるのか?【イベントレポート】
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登壇者プロフィール
白央篤司さん:フードライター、コラムニスト。出版社勤務を経てフリーに。「暮らしと食」をテーマに執筆する。最新刊は「はじめての胃もたれ」(太田出版)。朝日新聞ウィズニュース、文藝春秋「CREA」ウェブサイト、マガジンハウス「クロワッサン」オンラインなどでコラム連載中。
高橋ユキさん:傍聴人、フリーライター。事件・裁判を中心に取材している。主な著書に『つけびの村』(小学館文庫)、アウト老の実態に迫った『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社)、『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など。
亀松太郎さん:編集者、記者。朝日新聞やJ-CASTニュース、ニコニコ動画、弁護士ドットコム、Yahoo!ニュースなど新旧さまざまなメディアで記者や編集者、プロデューサーを経験し、新規メディアの編集長として立ち上げに関わった。
左上から時計回りに白央篤司さん、高橋ユキさん、theLetter杉崎、亀松太郎さん
300名以上の参加者を集め大きな注目を集めた今回のイベント。その企画の原点は、白央さんがXに投稿した、ライター稼業の難しさを率直に綴った一連の投稿でした。
かねてより、ライター業界の原稿料問題はSNSで度々話題になってきました。イベントでは、業界の「当たり前」として長く放置されてきた原稿料の実情から、AI時代をどう生き抜くかという生存戦略まで、議論は大きく広がり、参加者のチャット欄も終始盛り上がり続ける時間となりました。
濃密で具体的なトークは本来そのまま全てお届けしたいほどですが、今回は特に踏み込んだ部分を厳選してご紹介します。
なぜ原稿料は、低単価のまま固定化するのか?
イベントはまず、「なぜ原稿料は上がらないのか」という根本的なテーマからスタートしました。
ライター歴の長い白央さんと高橋さんは口を揃えて「長く続く慣習の中で、安いことが常態化し、改善が必要だという意識が薄れやすい」点について言及しました。
高橋さんは、Web媒体で兼業ライターとして活動を始めた当時について、「2010年代のWeb記事の案件は、専業では到底食べていけない金額ですが、当時は疑問を持つ余裕すらなかったです。ライターの収入はすべて“臨時収入”のようなものでした」と振り返ります。
白央さんも「Webの単価は徐々に改善したものの、出版の原稿料は出版社次第で、キャリアが反映されにくい」と指摘します。ジャンルによって難易度が異なるにもかかわらず、横並びの単価設定で扱われる現状に、チャット欄からも共感の声が上がっていました。
この状況について、編集者の亀松さんは、構造的な原因として「供給過多」を挙げます。SNSの普及前は、執筆や発信は限られた職業にしかできないことでしたが、個人で発信できる場が増え、ライター志望者は拡大。一方で、マスメディアは縮小しているため需要は以前ほど大きくなく、結果として単価が下がりやすい構造になっていると説明しました。
契約・交渉の難しさと“編集者ガチャ”の現実
議論は徐々に、受注や契約など、より具体的な話題へと移っていきました。
フリーランス新法で契約書を提示する媒体は増えたものの、ライターに不利な内容が多いと高橋さんは指摘。白央さんも頷きながら、編集者と1対1の関係では、突然の契約解除や契約書の明文化がされないケースもあり、外から見えにくいライターと編集者の関係における閉鎖性について口にしました。
編集者いち個人の判断によって翻弄される、いわゆる“編集者ガチャ”においては、白央さんが語ったご自身の体験に対し、チャット欄でも「原稿料の交渉をしたことがあるが、その後要注意人物扱いされてしまった」「交渉したら契約を解除された」といった経験をした参加者の声も。高橋さんも「交渉するときは契約解除されても仕方がないという覚悟を持って行う」と言います。
ここで亀松さんは「ライター側から見積書を出す文化を作っていけたら」と提案。原稿料の内訳を細分化して説明できれば、交渉の土台が変わる可能性があると話しました。
一方、チャット欄には「面倒なライターだと思われて契約を切られるのでは」「人数が多く替えがきくと言われたら怖い」といった不安の声も。
それでも白央さんと高橋さんは、「経験のあるライターが声を上げなければ、若い人が参入したいと思える業界にならず、この仕事自体が衰退してしまう」と危機感を示します。同時に、その状況を変えるための覚悟についても語りました。
こうした議論を通じて、実務上の難しさと理想との間で揺れる現場のリアル、そして個人だけでなく業界全体で改善に取り組む必要性が、より鮮明に浮かび上がりました。
AI時代にライターはどう生き残る?
後半の議論では、「AIが当たり前に使われる時代に、ライターはどう生き残るのか?」という、まさに今向き合うべきテーマに移っていきました。
校閲や要約など、すでに編集者の業務ではAI活用が広がりつつあり、亀松さんからも「編集者の集まりでは、AIに置き換えているという話を何度も聞いています」というリアルな状況の話も。特にSEO記事や単純なインタビューはAIが得意とする領域で、今後この分野の需要は確実に減っていくと指摘します。
高橋さんは文字起こしなどの作業でAIを活用しつつも、「若手が本来経験すべき仕事がAIに奪われ、育つチャンスが減ってしまうのでは」と危惧。白央さんも「AIを使うほど文章が均質化し、書き手としての個性が育ちにくい」とし、「30〜40代になっても自分の文体が形成されないのはライターとして危ういこと」と語りました。
とはいえ、三人は悲観にとどまらず、そこから「では、どう生き残るのか?」という実践的な議論へ。
白央さんと高橋さんは、SNSやtheLetterのような “個人がメディアになる手段” が増えたことを前向きに評価するとともに「匿名の量産型ライター」ではなく、“あなたが書くから読みたい”状態をどう作るかが鍵になる、と強調。
高橋さんは、theLetterで実際に発信している経験から、「自分の名前で読者と直接つながり、価値に応じた対価を受け取るモデルは成立しうる」と語ります。
亀松さんもまた、AIによる文章が増えるほど「ざらざらした、生身の声」を求める読者は必ず出てくると考え、価値のある文章には読者は必ずお金を払う、場合によっては編集者を介さず成立するケースもあると話しました。
総じて三人が繰り返したのは、「AIでは代替できない個性や魅力をどう磨くか」が生存戦略になるということ。
ライターが文章力だけでなく、“人としての存在感”を発信していく時代が到来し、自分の名前、視点、魅力、そして読者とのつながり── これらすべてを総合して“価値”として提示できるかどうかが、これからのテーマになっていきそうです。
原稿料の低さという長年の課題を出発点にしつつ、議論は契約の現実、AIの影響、そしてこれからライターがどう生きていくかという未来のテーマへと大きく展開していきました。
登壇者のリアルな経験談と、チャット欄に寄せられた多様な意見・悩みが混ざり合い、その場で“次の一歩”につながるヒントが生まれていく。そんな濃密な時間が流れていました。
また、登壇者だけでなく、画面の向こうには同じように悩み、考え、前に進もうとする多くのライターがいることも感じられ、「第二回もぜひ」という声が相次いだのも印象的でした。
今回のイベントが、ライターとして働く一人ひとりにとって「より良い環境へ近づくための小さくても確かな一歩」になっていることを、“書く人”を支えるプラットフォームとしてのtheLetterも心から願っています。
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