精神科医・藤野智哉さんに聞く「発信場所を移した理由」
theLetter ストーリーは、theLetter 上で活躍する書き手の方々に、メディア運営方法や活用の理由などを深掘りする公式ニュースレターのコーナーです。
精神科医の藤野智哉さんは theLetter を利用し「精神科医 藤野智哉のニュースレター」を運営しています。今回は様々なプラットフォームの中からなぜ theLetter にしたのか?についてお話を伺いました。

情報発信は人々の不安や偏見を減らすため
「精神疾患で責任能力なし、無罪」という事件のニュースを聞いたことがある方もいると思います。それについて「そんなのはおかしい」と違和感を覚える人がいても無理はありません。裁判の傍聴でもしないしない限り、その結論に至ったプロセスはブラックボックスですから。私自身も昔は「わからないことには何も言えないな」と思っていましたが、その一方で「もしかして、自分も加害者にも被害者にもなり得るのではないか」ーーという疑問が浮かび止まりませんでした。
そんなふうに司法精神医学に興味を持ったことや、心身に不調をきたしていた身近な人を助けたいと思ったことがきっかけで精神科医を目指しました。
精神科は一般的に「行きにくい場所」とされがちですが、日本で精神疾患を有する患者さんは約600万人を超えるとされ、実際には通院されている方が多くいます。それにも関わらず、自分だけが悩んでいると思い込んだり、情報不足で悪質なクリニックや誤った治療法にたどり着いてしまうケースも少なくありません。
精神神経科の疾患は、誤解や偏見が生まれやすい領域でもあります。「てんかん」と聞けば、多くの人は事故などの悪いイメージを抱くかもしれませんが、発作をコントロールして普通の生活を送る人がたくさんいます。裸で街を歩いている人がいたら、「変な人がいる」と今の時代ならスマホで撮影し出す人がいるかもしれません。もちろんただの変な人の可能性もありますが、そうではない人の行動の背景に、躁状態や幻覚妄想が影響している可能性を少しでも想像することができたなら、人々の関心を引くためにネットにあげてしまおうという発想にはならないと思うんです。
知ることで見方が変わることは、本当にたくさんあります。知らなければ「変な人」で終わってしまうことも、知識があれば「ああ、これは症状なのか」と理解できる事があります。情報発信を始めた理由は、正しい知識を知ってもらうことで、無駄な不安や偏見を減らしたいという思いからです。
精神科の外来診療に加えて医療刑務所でも診察を行っていますが、医療刑務所にいる人たちの中には、多くの人の想像をはるかに超えるような厳しい環境で戦って生き抜いてきた人も少なくありません。だからといって犯罪が肯定されることはありませんが、正直、「もしも自分がその状況に置かれたら、絶対に罪を犯さないとは言えない」と思うこともないとは言えません。
そういった経験もあり、医療刑務所での診察業務を始めてからは、世の中に働きかける必要性をより強く感じさせられました。
発信する「場所」や「方法」の試行錯誤
発信活動をするにあたり、いくつかのプラットフォームで試行錯誤を続けていました。Xは拡散性が高く、音声発信プラットフォームは「話すだけ」で情報を届けられ、オンラインサロンでは熱意あるサロンメンバーの方と深い対話が楽しめました。
一方で、短い言葉では伝えきれない内容があったり、審査制と謳われていたものの、首を傾げる発信をしている同業者を見かけることがあったり、運営費用的に月々の課金の価格を抑えることが難しく、限定的な参加者の方にしか情報を届けることが難しいといった課題もあり、「広く、正確な情報を届けることで精神疾患で悩む人たちの不安や偏見を減らしたい」という目標へは距離を感じていました。
誰でも発信できる媒体は、悲しいことに正しいことを言えば言うほど届かない。わかりやすくて刺激的な嘘の方が、複雑でつまらない真実よりよっぽどバズるし、そういった場所では正しいことを言葉を尽くして発信するよりも、匿名で「今の医療は間違っている」と声高に言う方が響くんですよね。
でも、私のやりたいことはそういうことじゃないので、どうやったら正しい情報を広く届けることができるかを模索していました。そんな時に見つけたのがtheLetterだったんです。
「長い文章を読む人がたくさんいる」という発見
はじめに惹かれたのは、「正しいことを発信したら正しく届く場所」であることでした。小児科医のふらいと先生をはじめ、エビデンスに基づく発信をしている医師や各業界の専門家の方が多く、ここなら読む人が「何が本当かわからない」とはならないと思いました。昨年末には、紹介制のプロや専門家向け執筆プラットフォームとしてリブランディングされたので、より一層安心感が高まった印象です。
いい意味で想定外だったのは、文章だけでも読者の方々がついてきてくださったことです。メールで文章を読むということは、手間や時間がかかる能動的な行為であるため、正直、こんなに多くの方に購読いただけるとは思っていませんでした。
オンラインサロンでは、記事配信はもちろん動画配信ができたり個別交流ができたりと機能は多くありますが、本業がある医師にとっては、やることを広げすぎると手が回らなくなってしまいます。その点、theLetterは核となる部分が「メールで記事を届ける」というシンプルなものなので、忙しい人にこそ向いているような気もしますね。まずは、きちんと継続的に発信することが大事ですから。
「正しい情報を広く届ける」という点で気に入っているのは、「課金内容に応じて質が変わらない」というところです。theLetterでは「誰でも」「読者限定」「サポートメンバー限定」で閲覧権限をコントロールすることができますが、私は記事の質に差はつけていなくて、サポートメンバーの方には記事の量で還元できるようにしています。
オンラインサロンの場合は「有料課金の人だけ個別相談ができる」といった機能単位での質に差が出やすいところが気になっていました。それもまた価値のあることだと思いますが、私がやりたい「広く正しい情報発信でみんなの不安や偏見を減らす」を実現するにはtheLetterの方が向いているんですよ。なので、今はオンラインサロンや音声発信プラットフォームでの発信は停止し、theLetterに発信を集約しました。
毎週3000字程度のニュースレターをお届けしていますが、本当は文章を書くことはそんなに得意ではないんです。取材を受ければ記事にしてもらえますけど、自分で調べて、自分の言葉でまとめて伝えることに意味があると思っています。とはいえ、当初はどんなふうに進めたらいいのか迷っていたんです。その時、テーマの壁打ちやメディアのトレンドについての情報共有などの運営サポートをしていただいたのは助かりました。いざとなったら相談できるのも、書くことが本業じゃない私のような医師には心強いですね。
次回『精神科医・藤野智哉さんに聞く「書いた記事の価値を倍にする方法」』に続く。
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